腋臭症(わきが・ワキガ)は遺伝や性ホルモン、毛量、精神的素因が関係していると言われ、脇や耳、乳輪、陰部のみ存在するアポクリン腺が原因となって、思春期以降に脇から特異な悪臭を放ちます。アポクリン腺から分泌される汗には脂質やタンパク質を多く含み、皮膚表面の細菌がこれらを分解することでワキガ独特のにおいが発生します。また、脇にあるもう1つの汗腺(エクリン汗腺)はサラサラで無臭の汗を分泌しますが、揮発性が高く、ワキガ臭を周囲に運ぶ役目を担います。
一般によく『汗臭い』という言葉を使いますが、腋臭症(わきが)のアポクリン腺汗による『わきクサイ』と、全身のエクリン腺汗による『汗クサイ』は異なりますのでご注意ください。これを混同してしまうと、腋臭症(わきが)の治療により汗をゼロにしないと気が済まなくなり、治療後の満足度が低下します。
皮弁法・腋臭症手術(保険診療)
皮膚の裏側にある(腋臭症・わきがの原因となる)アポクリン腺を直接目で確認しながら剪刀(ハサミ)を用いて除去する手術方法で、形成外科領域において数十年来の実績ある保険適用の術式です。
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腋臭症(わきが・ワキガ)保険適用基準
腋臭症(わきが・ワキガ)手術は保険適用基準があり、その規定ではニオイの有無ではなく強弱で判断します。鼻を近づけなくても臭う方や、臭いで鼻がツンとする刺激臭の方が手術適用となります。
当院の治療方針
〜傷を早期に目立たなくさせる5つのポイント〜
ワキガ手術は切開部だけでなく、皮下組織(わき全体)の炎症も早期に落ち着かせることが大切です。
①傷のデザイン
手術では、皮下のアポクリン腺を除去するために3~5cmの皮膚切開が必要ですが、しわに沿ったデザインで切開するため時間の経過と共に目立たなくなっていきます。
②皮下血管網の温存
当院は、皮下血管網をできる限り温存する治療方針です。皮下血管網をすべて除去する方針のクリニックもありますが、血管網を除去すると皮膚の血流が途絶えるため、血流を再開通させないと皮膚は壊死してしまいます。このため、皮膚をペラペラの分層植皮状態にすることで再開通の確率を上げるのですが、血管網を温存した皮膚と比べると皮膚が硬くて色素沈着の強い皮膚となります。
③術後1週間の圧迫固定
術後1週間目までは皮下への血腫や浸出液の貯留を防ぐことが大切ですので、創部の圧迫固定が必須です。当院では3つの俵状のガーゼを重ねて直接創部に糸を用いて圧迫固定します。
④ワキガ専用肌着
当院では術後1ヶ月程度までワキガ専用肌着の着用を推奨しています。腕を普通に下ろしていると脇の皮膚は常に折れ曲がって、しわになっています。術後1週間の圧迫固定解除後も適度にわき全体を圧迫することで、わき全体の創傷治癒を早めることが期待できます。
⑤わき毛処理
ワキガ手術では減毛があり、手術によって毛根に負荷がかかった毛の多くは自然に抜けていきますが、中には抜けずに刺さったまままの毛が残ることがあります。術後1ヶ月以降に残っているワキ毛の中で、抵抗なく抜ける毛は一度抜いてください。
⑥漂白クリーム併用
手術後は個人差もありますが、創部の色素沈着が生じますので、保湿クリームやハイドロキノン軟膏などを術後早期より用いてコントロールすることが可能です。
ワキガ(腋臭症)の原因汗腺
①エクリン汗腺
皮膚(全身)の浅いところに広く分布する汗腺。その汗の中身はほとんどが水分で少量の塩分を含んでおり、汗が乾く時に熱を奪うことで体温調節の役割を果たしています。緊張した時に汗がでる精神性発汗が特徴です。エクリン腺からの汗は無臭ですが、乾きやすい(蒸発しやすい)性質があるため、ワキガ臭を周囲に拡散します。
②アポクリン汗腺
脇や耳、乳輪、陰部、へその周囲だけに分布し、脂肪分や蛋白質が多く含む汗を分泌します。皮膚表面にいる常在菌によって脂肪分や蛋白質分解され独特のわきが 臭を発生し、また、衣服の黄ばみを作る原因にもなります。思春期以降に成長し大きくなり、活動が盛んになります。
日本人の10%が腋臭症(ワキガ)
腋臭症(ワキガ)は病気ではありません。放置しても健康上の問題はありません。東アジアでは臭いがある方が少数派のため肩身の狭い思いをするのですが、欧米では臭いがある方が多数派で一つの生理現象と認識されています。
ワキガは常染色体優性遺伝です。片方の親にワキガがあると子供の50%がワキガ になります。両親にワキガがあると子供の80%がワキガになります。日本では約10%が腋臭症と言われています。
診察の流れ
①お悩みの症状や家族歴、治療歴について問診を取ります。
②ワキガの診断はガーゼをわきに挟んで、脇のニオイを確認し、ニオイの性質や強さで手術適用かどうかを判断します。
③皮弁法手術は効果が高く実績のある治療であるため、適用基準を満たす方には推奨するワキガ治療の一つですが、色素沈着や傷跡等の副反応の可能性がゼロではありません。傷のできにくい他の方法も選択肢に入れた上で治療法を選んでもらうことが大切であるとの考えから、他のわき汗(わきが・多汗症)治療についても説明致します。
④ガーゼテストにて医師が腋臭症(ワキガ)の程度が手術適用基準を満たすと判断し、皮弁法手術の希望があれば、採血(術前検査)をして手術日程を決めます。