ニオイの程度に関わらず、傷の小さな手術法を希望される方は、イナバ法やクワドラカット法をご検討ください。
■イナバ法
イナバ法は皮下組織削除法とも呼ばれ、手術によって、ニオイと共に汗の量もできる限り減らしたい方に適応となる術式です。汗の量を減らすためには皮膚の厚さを約1mmまで均等に削り取ることが必要ですので、イナバ式皮下組織削除器を用いて手術をします。約1.5cmの小切開からから刃のついたカミソリ部分を皮下に挿入し、皮膚を上からローラーで挟み込んで、わきがの原因となるアポクリン汗腺,多汗症の原因となるエクリン汗腺をまとめて削り取ります。毛細血管もほとんど除去するため,単なるガーゼによる固定ではなく、特殊な圧迫固定の仕方で創部の安静を図ります。
■クワドラカット法
クワドラカット法とは、TPSコンソールにわきが治療専用のハンドピースと3mm径のシェーバーチップを接続して、チップ先端のカッターで皮膚裏のアポクリン腺やエクリン腺を吸引しながら除去する方法です。5mm切開で皮膚裏のアポクリン腺やエクリン腺を除去できるため、手術希望の方で傷跡の大きさを特に気にする方に適用となります。
■わきが(腋臭症)の原因汗腺
①エクリン汗腺
皮膚(全身)の浅いところに広く分布する汗腺から分泌される汗。その汗の中身はほとんどが水分で少量の塩分を含んでいます。汗が乾く時に熱を奪うことで体温調節の役割を果たしています。緊張した時に汗がでる精神性発汗が特徴です。わきが において、エクリン腺からの汗は無臭ですが、乾きやすい(蒸発しやすい)性質があるため、わきが臭を周囲に拡散します。
②アポクリン汗腺
わきや外陰部、へその周囲、乳輪、耳だけに分布し、脂肪分や蛋白質が多く含む汗を分泌します。皮膚表面にいる常在菌によって脂肪分や蛋白質分解され独特のわきが 臭を発生し、また、衣服の黄ばみを作る原因にもなります。思春期以降に成長し大きくなり、活動が盛んになります。
■ワキガの診断
ワキガの診断はガーゼをわきに挟んで、脇のニオイを確認し、ニオイの性質や強さで手術適用かどうかを判断します。
■ワキガは遺伝します
ワキガは常染色体優性遺伝です。片方の親にワキガがあると子供の50%がワキガ になります。両親にわきがあると子供の80%がワキガになります。
■わきが手術の合併症について詳しく
①出血・血腫
出血や血腫を少なくするためには術後の安静が最も大切です。無理のない手術日程を組んでください。血腫は皮膚の細菌感染や皮膚壊死などの原因となり,創の治りを遅くする要因となります。
②感染
細菌が術後創部に入り込むと,膿が溜まり創部の皮膚はダメージを受けます。汗は感染の原因となりますので、汗をかくような運動や入浴時に創部を濡らさないように気をつける必要があります。また、わき毛のムダ毛処理を毛抜きで行っている方はニキビや毛嚢炎などができている場合があり、そこからの膿が細菌感染を起こす可能性もあります。わきが手術前には毛抜きでムダ毛処理をせず、よく洗って清潔にしてください。すでに粉瘤などの出来物がある場合は手術と同時に切除が必要な場合もございます。また術後10〜14日くらいからは脇を石鹸でよく洗っていただく方が良いです。
③傷
どの手術でも皮膚の皺に沿った傷で、できる限り綺麗に縫合しますが、傷は必ず残り、ゼロにはなりません。一般的には術後3ヶ月目以降に白くなって目立たなくなっていきます。
④ケロイド・肥厚性瘢痕
もともとの体質や感染を繰り返すことで傷が赤く盛り上がりケロイドや肥厚性瘢痕と呼ばれる状態になることがあります。その場合は手術後なるべく早期に治療が開始していくことが必要です。治療は圧迫やステロイド剤の局所注射、ステロイド含有テープなどの療法があります。真性ケロイドの場合は放射線療法を検討する必要があります。
⑤色素沈着
脇はもともとこすれる部分ですので,色素沈着は術前から70%以上の方に認めますが、わきが手術後に色素沈着が一時的に強く起こる場合があります。通常、時間の経過とともに薄くなり,もともとあった色素沈着程度に落ち着いていきます。色素沈着が残りやすい方や早期に薄くしたい方はハイドロキノンクリーム塗布をお勧めしております。
⑥粉瘤
手術によって裏から毛根部分を切除しますので、わき毛が刺さったままになって毛孔に沿って粉瘤ができてしまう人がおられます。皮膚の垢や脂がたまって黒い点状に残り、放置すると切除摘出が必要なくらい大きくなることもあります。術後残った毛は創部が落ち着いた後に一度に抜いてください。また、入浴時に良く洗うことが大切です
⑦しびれ
手術部位には細い知覚神経があり、手術によってこの細い神経も取らざるを得ませんから術後、知覚鈍麻や異和感などを感じることがあります。また、わきが手術後は圧迫固定が必ず必要になるのですが、脇の下にある太い神経を圧迫してしまうことがあります。その場合は肘から先に一時的なしびれが生ずることがありますが、通常、いずれも数ヶ月~1年程度で気にならない程度まで回復していきます。必要に応じてビタミンB12の内服を開始してもらうことがあります。